支部に入会させていただいてから約十年近く経つのに、初めましてという挨拶をしなければならない私を情けなく、また、会員の皆様には申し訳なく思っております。そもそも、このような事情になってしまった経緯をいいわけがましく説明させてください。
私は、十数年間東京に本部を置く大手監査法人に、最後は社員として勤務していました。しかし、独立して監査法人を自ら設立するのが資格を目指した時からの夢でしたので、平成三年に監査法人の社員を辞任し、二年の準備期間を要して、平成五年に東京と札幌に事務所を構える監査法人を設立しました。札幌にも事務所を構えたのは、私が最後に大手監査法人の札幌事務所の責任者であった関係によります。この札幌勤務が私の人生観(ちょっと大げさですが)を変えました。東京では通勤に、殺人的な満員電車で約一時間半を要していました。これが当り前というか他の地の状況はわかりませんでしたので、何の疑問にも思っていませんでしたが、札幌転勤が決まり、地元の不動産業者に住居を探しに行った時のことです。
「どの辺をお探しですか。」
「初めての地でわからないのですが、東京ではないので通勤三十分位の所はないですか。」
「え、お客さん、そんな遠くからかようのですか。」
結局、地下鉄で二つ目、駅より歩いて一分の3LDKのマンションを月九万円で借りたのですが、後で札幌の人によくいわれた言葉です。
「どうしてそんな高いマンション借りたの。もっと近くて安いところがいくらでもあるのに。」
この経験が私に一つの教訓を与えてくれました。
「東京は働く所であり、住むところではない。」
長くなりましたが、これがふるさと新潟に住居を構えた理由です。東京と札幌にワンルームのマンションを借り、週末には家族と新潟で過ごす、理想と考えたのですが、思わぬ問題が生じました。監査法人を設立すると、その場所では税理士登録が出来ないことを知らなかったのです。税務と会計監査で両立することが独立開業時の夢でしたし、また、会計監査を受ける側に公認会計士と税理士の区分が出来る人は稀である現状を考えますと、両方の肩書きはどうしても必要になります。それで、自宅に税理士登録をさせて頂きました。支部の会合等はほとんど出席出来ない状況が続いていますが、土曜日、日曜日でしたら新潟に居りますし、協力出来ることでしたら何でも行いますのでお申し付けください。
さて、東京での通勤で私の生活を変えたことがもうひとつあります。読書です。それも小説です。
社会人になるまで、私は小説を読みませんでした。小説はフィクションでしかなく、ドキュメンタリー、ノンフィクションでなければ読み物ではないと気負っていたのです。
それが、通勤電車に乗ってから変りました。ぎゅうぎゅう詰めで身動きできず、新聞を広げる空間も余裕もありません。このまま一時間乗っているのは苦痛以外のなにものでもありません。新聞は無理でも本なら読める。通勤電車で本を読んでいる人を見て早速私も本を読み出しました。勿論、小説などというくだらないものは読みません。専門書です。でも、満員電車の中では集中できるはずがありません。特に帰りの電車は、立ったまま本を持って寝てしまう有様です。ドキュメンタリーものに代えても同じでした。
ある日、本を持っていないことに気がついた私は、駅の売店で一冊の本を買いました。何の気もなく買ってしまった本が、当時私が最も嫌っていた推理小説です。そして、しかたなく電車で本を読み出した私は、降りる駅を乗り過ごしていることに気がついたのです。
それ以来、小説に目覚めたのですが、凝り出すときりがない私は、暇を見つけては小説を読み出すようになってしまいました。これではいけないと思い、通勤電車以外では小説を読まないと決め、その習慣は現在も続いています。今では小説なくしては電車に乗れなくなってしまいました。
小説は、常に数冊買い置きしています。次に読む順番を決めておかないといやなのです。鞄には、常に二冊の小説が入っています。通勤途中で読み終わってしまっても、すぐに次の小説を読めるようにしておかないと気が済まないのです。自分でも少し病的かなと思っています。
田辺先生より、今回の原稿の依頼を受けたのを期に、一度これまで読んだ小説はどのくらいかと思い、本を数えだしたのですが、千冊で数えるのをあきらめました。おおよそ二千冊位と思われます。二週間に3册のペースで、二十数年間読み続けたことになります。
最近は古本屋通いをしています。読みたいと思った単行本を、文庫版が出版される前に古本屋で見つける。得したという快感が忘れられません。(わずかな金額ですが)また、二千冊の本の置場所に困っています。売却はしたくないし、かといってもう一度読むことはないだろうし、家族からは邪魔だといわれるし、どなたかいいアイディアがあったら教えてください。
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